深海、低空飛行


 あぁ、わたし、信じられないなぁとまだ腫れる目をおさえた。わたしは、孤独のことを嫌というほど分かっていたはずなのにそれでも、人の孤独に寄り添いたいと思っている。刹那的な感情じゃない。もっと心の奥底からくる潜在的な、そして物凄く熱を帯びた、波乱の感情。寄り添うことが使命みたいに思えた。そうしなきゃ、じゃない。そうすることが、当たり前のように。かなしい人ばかり愛してしまうのはそういうことだった。言葉が熱になり、喉のところで詰まって、嗚咽さえも飲み込む。絶対に駄目だという硬い意思がある。わたしはわたしの人生を生きると決めてもなお、人は分かることはできないと諦めてもなお、わたしは人を愛している。深く、深海の底で低空飛行をするつめたい生物のように、ひっそりとした孤独を愛している。

 埋めようと思うんじゃない。淋しさはその人のものだから。ただ一緒にいたい。きっと、一緒にいることでわたし自身満たされるのを知っているから。ねじ曲がった見方をしてしまえば人の孤独にあやかって己を慰めるような。情けなくてやるせない気持ちになった。所詮すべて自分を中心に生きていたんだよ。

 全部中途半端にしかできないなら絶対に他人の人生には踏み込まないと決めていた。わたしはどうしたかったんだろう。かわいそうな生きものには優しくしなければいけないと教えたのは誰でしたか。先生ですか。愛を愛と認めることだけが正義だと、ならばなぜあの時に言ってくれなかったんですか。虚空の心になにを言っても同じことです。しかしまだ、まだその先を愛したいと思います。わたしはもう、そんなちっぽけな希望を愛でるくらいしかできません。その先が闇でも光でも、受け入れて生きてゆくしかないのです。

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