ひとにやさしく
お題 罪深い癖 はすのめさんから
かわいそうなものが好き。かわいそうだから好きだったのかもしれない。
たとえば前脚を挫いた雛。鳥は、脚を折っている。触角のない蝶々。指が足りない無脊椎動物。かわいそう。あかちゃん、意思のない犬、目を失ったメダカ。みんな可哀想。
かわいそうなものが好きだったのはなぜ。わたしを欲してくれたから。求めてなくても、欲してるようにそれはみえた。手を差し伸べてあげなければこのいきものは死ぬ、と思った。傲慢だった。なにかに依存していないと立てなかった。赦されることが必要だった。
かわいそうなものがわたしをみて、気持ちが悪いという。わたしはそれを見て、きみはそんなこといわないと言う。そうだった。やはり、そういうことの繰り返しだった。おばあちゃんがわたしにいったのは空を見ろって。嫌なことがあったらそれで忘れるからって。わたしはいつも解決法を知っていたのに地底を眺めていたんだなあ。
別に罪深いということもない。なんてことない暗い趣味。なんとなく、友達には言えないくらいの。
うさぎが横たわっていたら安心する。星座占いが12位だったら安心する。できないことが安心する。いつもいつだってドベの方が、期待すらされないことが楽だった。期待をされない、だから自由にできる、そういう淡い期待をもって。
かわいそうないきものに優しくしたのは先生。だからわたしも、そうするしかなかった。わたしも可哀想になりたがった。可哀想なものを集めてもそれは可哀想なものたちの結晶で、決してわたしに成り代わることはなかった。悲しいことだと思う。なにもかもひとりで背負い切る方が、慰めてもらえることより悲しいんじゃないか。
朝日が昇ってる。もうそれに気づかない火鼠は、自分を醜いと思った。そんなことはなくても、そう思いこんでいた。
手を伸ばす猫。目の前には、光っているラムネがある。それに手を伸ばして、伸ばす前に、手短な鼠で事なきを得る。火鼠はもういない。いるのは猫だけ。猫だけがすべてを知っている。かなしいこと。
全部をかわいそうにしたから怖いものがくっきりと色をもった。それまで灰色だったくせに、急に色がついてしまう。それを怖がらないために、ひとは色んなことをする。ご飯を作ったり、音楽を聴いたり、運動をしたり、笑ったりする。そばにすぐ死があるから。
きっとみんなかわいかったね。虫たちも、家に帰ってはそれぞれの生活を続けた。残ったのはわたしだけ。いつもそう。いつも置いていかれる。猫も、火鼠も、愚かな虫でさえそうだった。綺麗だと思う。また明日、という。なにもないところに生まれた顕著なあなたのラヴレター。また明日がくるたびリズミカルにそれは朽ちると思う。わたしだからできたこと。わたしだからできなかったもの。
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