泣いている君が好きだ
お題 はすのめさんから
泣いているところをみたことはない、でも見えないところで泣いてたのをしってる。
あなたとふたりで
ゆきちゃんのLOVER SOULが流れてる。小気味いいネギを刻む音。音。思い出している。あなたとふたりで。このまま。あなたとふたりで、このまま消えてしまおう。
深く、思い出してみる。
泣いている君を想像して、どうなった。みんなだったらこうしたのかもしれない、と思う。でもたぶん、わたしはそれをできない。
LOVER SOULのギターだけが浮かんでいる。歌詞があるとぼんやりするから、ギターだけ。それも、女子高生が弾いている、2000年代初期の幻をみている。
泣いている、わたしのために泣いているのはいいことだ。愉快になる。罪悪感もある。でも、誰かがひとのために泣いているということ。それは、相手が誰であれ、きれいだった。脚がずっと痛い。なんだろうと目を落とす。きつねが指でつねっている。その指は、人間の色をしている。最低だって思う。
ギターの奥にも歌詞は聴こえていた。第一、歌声を全部消すなんて無理なんだ。むりだってわかってたのに消したがった。なかったことになる、ことを望んでいたのかもしれない。雪が降り積もるたび顕著になったその肉塊は、素直な顔をしていた。明るくなるたび、わたし以外を照らして屈託なく笑っていた。それをわたしは、忌々しいとも思わず、ただなんとなしに、みていた。
ないている。男が、女が、泣いている。かなしい顔、怒っている顔、それら全部、そのように見えていたもの。わたしは、そのどちらだったのかを考える。どちらかなんて選べずに、今日も涼やかな風をきいている。さわれない音と、落とし穴に消えていったきれいな歌声のおぼえ。いつもいつだって、腕からすり抜けたものたち。わたしがほんとうに、好きと思っていたものたち。涙がでる。
嘘つきだったね。ぐしゃぐしゃの指の先から見えるのはきつねの遠吠え。もう遠くでわたしを観ながら、さながら大鷲のようにしゃべっている。その手は、黒くなっているけれど、元は白かったね。わたしをみて、そういっている。
白かったから、汚したんじゃないですか。汚れない白なんてないと、吉野弘も心の四季でいっていたのに。欺きやすい雪の白さ、誰もが信じる雪の白さ。信じられている雪は せつない。どこに純白な心などあろう。どこに汚れぬ雪など あろう。
詩はこう続く。
雪がはげしく ふりつづける
雪はおのれを どうしたら
欺かないで 生きられるだろう
それが もはや
みずからの手に負えなくなってしまった
ように 雪ははげしくふりつづける
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