“見える”日
今日はたくさんのものを見た
“見れる日”だったのが、うれしいと思った
大抵、わたしは余裕がなくなると みちばたのタンポポすら目にはいらなくなる。
まるでほんとに、そこに存在してないみたいに
はじめはタンポポだった。
お昼がすぎたくらい、甘いものを買いに地面におりたつと、目の前の左側にはっきりと陽気に、はやはやとひかるタンポポが見えた。
あ、タンポポだ……としばらく頭がタンポポの畑になってしまうと、お目当てだったデザートは売り切れてしまった。
タンポポに見とれていたというより、自然の1部に目がとまったことに驚いていた。
なにより午前中は 息をつく暇もないくらい忙しかったから
いつも、川にながれる水や、そのまわりの草や花をみると、あたまの速さがぼんやりとしてしまう。
そのまま夕方になり、自転車をカラカラ 押していると タイヤがふたつ、溝にはまりこんでいた。
なんていうか、不思議の国のアリスに出てくるハンプティ・ダンプティを見つけてしまったきもちになって、
こころの中で“タイヤタイヤタイヤ……”とつぶやいてみた
タイヤをくりかえしてたら、いつの間にか“屋台”に変身していて、ふふってわらった
とおくにいる山を見ると、近くの山ととおくの山との 濃淡のちがいが目にうれしかった。
やわらかなもやのかかる朝は、同じ景色を見てよく コントラストを下げたみたいだ…と思う
ほんとうに、朝と昼と夜で、場所はまったくおんなじなのに、まったく違う景色に見えてしまうな。
どんなところであっても道というのは、ほんとにたくさんのものが見れて、回転寿司みたいにくるくると 頭のなかにものがふえていって…まるでいみがわからない辞書だとおもう。
朝は、車なのに完全にマットな色合いの、黒の車を見た。
車ほどの近未来的なものならば、メタリックとか、どこか硬派なイメージをあたえるのが普通だとおもっていたから、えぇっと思って、しばらくわたしのなかのトレンドはマットなくるまだった。
夕方になると、きまじめなレッドスポーツカーを見た。
あれは、深紅、とか赤、とかいうより“レッド”って表現がぴったりで、
思わず 型にはまってぎらぎらとひかるその車を見て、朝のへんてこりんなマットな車を思い出した。
やけに、スポーツカーがあたり前のものに見えてしまって。
もしこの時に、朝見た車があらわれていたなら、わたしは迷わずマットな車の方にサインをもらいにいくだろうなと思った。
わたしは意外と車がすきだ。
だんだんと家に近づいてくる。
こどものキャッキャとはしゃぐ声や、あやしげなビラをくばるおじさんなどの集団を通りすぎると、
数えると りょうていっぱいになってしまうくらいに昔に、子どもの頃よく見ていたふしぎなおじさんをひさしぶりに見つけた。
小学生のころ、気がついたら公園にいて
めちゃくちゃラフな格好をしていて、いつも楽しくて新しい遊びをおしえてくれたり、お菓子をくばったりしていて、気がついたらいなくなる人。
年齢がわからない、あの独特な雰囲気をもった謎の人
意味不明なかっこうも、豪快にわらう楽しげな声も、近所の子どもにおかしを上げたり遊んであげてるとことか、まったくあの時とおんなじだと思った。
そうしていると、ふいに近くの家が目にとまった。
今日はほんとうにたくさんのものがわたしの目にうつる。
その家は、くすんだ水色や藍色が絶妙な割合でなりたっていて、まるで背景ととけ込んでしまっていた。こうして目に止まらなければ一生映ることはなかっただろうな とぼんやり思う。
目にしてから通りすぎるまで約10秒。
その間で、わたしはその家がじっと存在していたことを知り、長方形でくすんだ色だと知覚し、そうして裏がわは、へんてこなナナメの形をしていて、派手なピンク色だったことを知った。
めちゃくちゃな衝撃だった。
はじめて目に映したとき、わたしは完全にその家は 360°全部、くすんだ水色で、長方形だとおもっていた。
でも、じっさい別の角度から見てみると、ナナメだし、ビビットピンクだった。
思いこみって、こわいな……と今日
はじめて戦慄とする。
わたしは、表面上だけの情報のみで ぜんぶを決めつけてしまったんだという、わかっていたけれど、実際に体験すると ショッキングなできごとで
たしかに、もしかしたらその家は、わたしが知らないだけで底の所はまっきいろかもしれないし、中には小人がうじゃうじゃ住んでいるかもしれないんだ
うかつだった……と思わず声に出しそうになって、周りを気にしてためいきにすりかえる。
いま、わたしがこいでいるこの自転車も、もしかしたら内側はどこかの星のどこかの生きものと、交信できるミラクルな電話の素材でできているかもしれないんだ……
そんなことはないにしても、ほんとに 知ろうとするまで、内面とか、本質ってわからないなと思った。
ただいまと家に変えると、いただきのものの玉ねぎがごろりと転がる。
あぁ、とハッとする
わたし、あのおじさんの 名前すらしらない。
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