わたし


わらわないでください


思えば いつだってわたしは
 嘘や、夢を愛していたように思う

それは自身のよわさからくるものなのか、それとも生理的にそういう幻のようなものたちを愛していたのか
わからない。けど、両方なんだろうなと思った。

夢や嘘は、いつだってわたしを怒らなかった。
不用意なことを言って傷つけなかったし、暴力をふるわれることもなかった。

やわらかい笑顔もなかったし、悲壮感ただよう泣き顔だってなかった
ただそこには 無だけがあった

夢や嘘は、なにもいわなかった
わたしがなにをしても、いいことをしても
悪いことをしても、なにもいわなかった

夢や嘘は、わたしをゆるしてくれた

ぬるま湯にたゆたうような生活がすきだった。
好きな人たちと、好きな場所で、好きなものをたべられたならそれでよかった
好きなものなんて、別になくてよかった
こわいことや悲しいことや、徒然なきもちを埋めるために縫い合わせる好きなものなんて必要がなかった

今はちがった。いつだってわたしは好きなものを求めていた
無理にそうしようとしていたわけではなかった
ただ、なにか別のことをしていないと
無がおしよせてきてどうしようもなかったから。

死ぬとか生きるとか逃げるとか、そういう以前の問題でわたしはとにかく無がこわかった。


矛盾のなかでいきていた

無機物があたえるぬくもりにからだを任せながら、
ぬるま湯のような日々が好きだとわらいながら、こどくや悲しさが織り成す無がこわいと言う
自殺のニュースを見て、世界が平和になってほしいと泣きながら、自分の周りのちっぽけないさかいに心を折られ死にたいと泣く。

つよくなりたいと言いながら、
つよくなっていく自分にたえられない。

すべてが矛盾だらけだった
なにも信じたいことなんてなかった
神も仏も信じていなかった

祈ることで報われるなんて、そんな矛盾がゆるされるのか
まかりとおるのか
不治の病を治すためなら、夢幻のような神や仏に祈るというのか。

すべてがかなしかった。
わたしも矛盾をたのしめる人間になりたかった

母についていき、寺で一心に念仏をとなえる人たちを見たとき、あまりの衝撃に涙がこぼれた。

みんななんのために祈っているのか
親のため、こどものため
また親戚のため、夫のため。
大切な人のために祈るのか。

祈りは願いだ
祈りは愛だ

愛があれば、なんだってできるのかな
そんな、非科学的なことで
みんな
わらっていて

矛盾のなかで生きながら、矛盾をみると理解できなかった
そんな自分もわけがわからなくて嫌いだった

ただ 今は
できることをやるしかなかった
なりたかったスーパーヒーロー
なれないのなら、人のために全てを捨てる決意がもてなかったのなら
せめて 自分にできる仕事に、ひたすら、真摯に、向き合うしかなかった。


わたしは妙子という人間で、
でも
きりんやゾウなんかのどうぶつになりたかった

とにかく人間がいやだった
なんで生きてるだけでこんなに哀しい思いをしなくちゃいけないのかわからなかった

みぞおちを殴られるかんかく
泣きすぎて息が ひゅっ ひゅーとなって、うまく呼吸ができなくなるかんかく
目の前で親が手首をきったかんかく

なんでこんなことされなきゃいけないのかわからなかった
なんでずっとかなしいのかわからなかった
なんで
なんでずっと、なにをしていてもかなしいんだろう
周りの
はやりの食べものを手に取って、笑い合う同級生たちが憎かった
ラウンドワンでスポッチャを楽しめるようになりたかった
家族でバーベキューや旅行にいきたかった
花火大会にいきたかった
先生から下の名前でよばれたかった

みんなみたいに、完璧なこどもになりたかった

親は失敗作だと言った
たしかにそうかもしれなかった
でもそんな概念がわたしはきらいだった

こんな概念がないものになりたかった
ふつうに生きていても感覚がへんだと言われる
人間じゃなかったなら、弱肉強食の世界なら
もはや単純で純粋な、けがれのない肉になれたのかもしれない
わたしはその肉にすらなれなくて
なれたところで、捨てられるのがオチだけど。

ごめんなさい と
生きていてごめんなさい、なんて、何回思ったかわからなかった

最近はぜんぜんしにたくなかったけど、やはり考え出すと死にたくなってくる

ほんとは本を出したら死ぬつもりだった
でもある人の言葉のおかげでいま生きていた
その年のおみくじは大吉だった


わたしはずっと、夢のなかでいきていた
目の前なんか、ほんとは見ていなかったのかもしれない
あしもとを見るのがこわくて、ひたすら楽しい世界を夢みていた

くまは、わたしをゆるしてくれたから
無は
夢や嘘は、わたしをゆるしてくれたから

どれだけかなしいと言っても、泣いても、くまだけはわたしをゆるしてくれたから。


ほんとに なんでこんなにかなしいのか わからなかった
いつまでいきればいいのかわからなかった
生きがいが ほしかった

でも
境遇だけには負けたくなかった
環境とか境遇をいいわけにして努力をしない大人にはなりたくなかったから

わたしはそれなりに自分に自信があった
自分というより、何年もかけて悩み抜いたうえで生まれた結論に自信をもっていた

わたしがわたしであれたなら、きっとなにもかも上手くいくと信じていた。

わたしはわたしの感性を愛していた。
世界をすなおな目で見ることをやめたくなかった

すべての人に平等でありたいと思っていた
せめて 周りの大切な人にだけには、やさしくありたいと思った

まだ生きていていいのなら、わたしはもっとたのしい世界がみたい
夢でも嘘でも

そこがあかるくて、だれも泣いたり怒ったりしていないなら、そこに行きたいと思った

どれだけ良いことをしたら、そこにいけますか
どうしたらもう、ずっと哀しくなくなりますか
おしえてください おしえて…


わからないから、くまを抱いていた
くまは、目を ずっととじていた

くまはなにもいわなかった。
ただやわらかさとはね返る温度だけがそこにあった。

くまは怒らないし、なぐらない


くまだけは、わたしをゆるしてくれた。




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