To YOU From TAEKO
こんにちは。はじめてお手紙を書きます。
そちらはもう、綿雪がふりはじめたころでしょうか。
思えば、わたしたちが出会ったのも しんしんと雪のふるまんなかでしたね。
日本語で「こもりうた」の意味のパン屋さん。
季節限定のそのあんまんが、どうしてもほしくって
初対面のわたしにゆずってくれたあなたの横顔はさびしげで
でも
ほんとうに、かがやいて見えたんですよ。
「あんまんは、
半分こするのがおいしいんですよ」
あなたを引きとめるために必死でさけんだあの言葉、
今思いかえしても笑いがこみあげてきます。
ほんとうに。
ふりかえったあなたの拍子抜けしたかお
わたしの、今にも泣きだしそうなくずれたかお
雪のふる街
いちょう並木の まんなかで。
わたしたち、たしかにあの時に、出会ったんですね……
なつかしい。
わたしがとつぜん手紙をよこしたので、あなたは驚いているでしょう
ごめんね
会いたくなったから、なんて
そんな中古のCDの売れ残りみたいな安いセリフをならべてみます。
雪のくににいってしまったあなたに、会えるわけないけど
ねぇ
そちらは、まだ雪がふっていますか
あのときと、同じように ふっていますか
やわらかな雪が
わたしたちをつつんでいたゆきが
真実の穢れも、まぼろしの幻灯も
ゆらり隠してしまうような あの雪が
まだ ふっていますか。
最後にかんじたあたたかい
でも
かすかに ふるえていた手
おぼえています。
ちゃんと、おぼえています。
あなたの確かな、生きていたという、心臓のおと。
たいおん
しんぞうの、脈打つ音。
それらすべて、夢だったなんて いわないでくださいね。
ぜんぶ、なかったことにしないでね
愛してるのよ ぜんぶ
ほんとに、心から、
今でも。
なかったことにしないでね。間違いだった、なんて いわないでね
大丈夫
あなたの命は、まちがいなんかじゃなかったよ。
だってこうして、わたしとして 呼吸をしている
あなたがいたから
わたしがいま
いきてるから
ありがとう。
ほんとに、ありがとう。
笑わないでね すごく、
わたし
あなたのことが、
すきだったの。
文字が、すこし ふるえています。
あなたに届くころには
にじんで見えなくなっちゃいそう。
ゆるしてね。
こちらは、まだ夏です。
むしむしと暑い日がつづいて、とけてしまいそうです。
はやく 冬がこないかな
あなたに願かけしたら、ちょっとは涼しくなりますか
なんて
心にもおもってないことを、いってみる。
それでは、お元気で。またね
妙子
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