2022.11.22 10:31紙やすりにひとしい 答え合わせをしたいの。そういったとき、彼の瞳もぼんやり揺れていた。その瞳はくすんだり、くぼんだり、様々な色に変わっては、最後にひとつの色に戻った。彼の瞳。「じゃあどうして、僕をこんなふうにしたの」 まるで台詞みたいだ、と本を綴じながら思う。1ページ1ページが別の話の、別々の人生...
2022.05.11 18:10マイエンジェル・胎 かなしくないといえば嘘だけど、もうどうしていいかわからない。すでにいろんな人を巻きこんでしまった絶望と、実際そこまで何も恐れてない自分にぼんやり、でも確かに不安になる。 ずっとこのまま続いてくのかな。ずっとわたしはこういうことを繰り返すのかな。どうやったら第三者になれたのかわか...
2021.10.02 04:03くまの死にぎわ くまのランデヴー。この世界にわたしを知るものはくましかいない。実直な暖かさ。抵抗も否定もしないその綿は、いつだってわたしを肯定した。 ゆっくりと瞼を閉じて、考えた。外には怪獣がウロウロしていたこと、目蓋を半開きにでも開ければもうそこにはわたしはいなかったこと。くまだけがわたしの...
2021.08.31 12:08ゆるしてと燦々 さざめく夜路の端で生きた、ひつじがひとつ鳴く。うれしいような淋しいような、音を立てぬ夜。空気はぴんと張り、けれどなんら居心地の悪さはなく、それぞれがそれぞれを生きるせいせいと孤立した夜。 個々が自由に想うことで空は蒼く澄む。近かった空は望郷に広がる。目に見えないものたちがはらは...
2021.04.17 11:13短編「シャルウィダンス」 うす淡い闇のなかに、ぼんやりとした光がいる。ぽつん、しかし一人きりで輝くそれに、男は目を奪われた。 はっきりといえばそれは事故で、しかし彼にとっては事実この上ない悲劇だった。透明な嘆息が語る明日へのかろうじた一歩は、それによって阻まれた。前脚をうしなうような、衝撃。しかし泣くこ...
2021.02.02 17:05短編「せいけつな罠」 晴れたある日のはらっぱは、これまでいちどもひどい目にあったことはありませんと言うような顔をしている。 一歩足を踏みだせば、蝶がかろやかに舞い、色とりどりの花はほほえみを返した。みつばちも、せっせとはたらくアリさえ、ここでは豪華絢爛の宮殿の踊り子にみえた。&n...
2020.11.06 11:22「お返しします」「なんで、だって君ももらってきたでしょう」「わかりません」 涼しい雪の通りみち。新緑の季節の真ん中で、木枯らしもひよどりも仲間になる。子どものころは気づけなかった当たり前に気づくのはどうして失ったあとだったんだろう。やさしい風が前髪を透ける。大人になったという明確な区切りは実はな...
2020.07.30 20:16アウトオブ犬 改 やさしいうたが聴こえて、いまが夢かほんとかわからなくなる。夢ならまだねてたいし、ほんとなら朝日と遊びたい。 頭が回らないとなにもかも秩序がなくなってこまる。今も牛の毛皮と曼荼羅が手をつないで踊っている。ひどく悪い夢。 今日はひさしぶりにスコールのような雨が降り、通っ...
2020.05.25 03:19短編「よいっぱりの追憶」 遠ざかる波の音をきいている。ときおり気づく港町の活気に、目を細めた。白く、うつくしかった家の於母影はもはやなく、わたしはその想い出だけをたよりにつめたい残骸に身を寄せていた。 つ、とせいけつなレンガに頬をあわせれば、みながよみがえる気がした。ここにはなにもな...
2020.05.14 10:11タイトルが勢ぞろいとこちゃんとはちみつパンミロ号泣日冷凍さかなうつくしい店幻と右ほほアウトオブ犬アーメン電卓レンガ(Smokey pink)せいけつな罠ひつじのうた秒速のマフラーしずかな草原幻のチューリップやさしい雨真夜中のタイトル愚かものたちのうた盲目のセックス踊れミラーボウルのなかでやさしい宣...