にっき 夜



 家のなかの明かりというあかりが消え
狂気さえもかき消す闇に包まれるとき
あぁ と、うっとりするほどの幸福感。

窓の外は一面の闇であり、しかし、ときおりうす青くぼんやりと発光して 蛍のように。
消える。

聴こえる音は、昼夜を問わずはたらく空気清浄機のごうごうという音と
ぴた 、ぴた と不規則なリズムでおちる加湿器の水の音のみだった。

わたしは現代っ子なので、電気毛布につつまれて じんわりとくる温もりにとけだしそうになり、よろこびをかみしめる。ハイカラである。

目だまが右にすこしうごき、ひだりにながれ、あたまも釣られてひかれれば、むっと香るつよいシャンプーの匂い。
それだけでもう、なんでもよくなるくらい幸せになった。
修学旅行の大浴場みたいな お風呂の概念と、その余情にうっとりと、息をついた。

きいちごとせっけんのような、
はたまた絡みついてはなれない魔女の香水のような
つよすぎる幻さえもみせるようなこの香りだって
全部夜のせいで

ごうごう
ぴた ぴた

鳴る機械音たちは
いつのまにかわたしを、大木に澄んだみずうみへとつれていっていた。



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