妙子をかえすね
今日もまた、ここにきていた
同じようなショーウィンドウつきのレンガづくりのたてものが、音もなくサークル状にならんでいる。
風もなく、あつくも寒くもなく、ただあるのはわたしと、そして少女だけだった。
その少女は、夢をみるといつもあらわれた。
同じ場所に、同じ服をきて、なんとなしに、
けれど確実な存在感をはなって、そこにいた。
「なまえ、なんていうの」
あまりこわいとは思わなかった。
実際、何年も前から互いに知っていたような空気をともにまとっていた。
「妙子」
「それ、かりてもいい?」
こんなやりとりを、たぶん何回もした。
でも、返事はやはりおぼえていなかった。
思い出すまえに夢からさめた。
いつか取り返しにこないかとひやひやして、いたとおもう。しばらくは。
それから3年が経ち、またこの夢を見た。
しばらく見なかった夢だ。
目をつむり眠ったかと思えばまた目が覚めて、そしてここにいる。レンガづくりのたてもの、サークル状、そして 少女
妙子。
「なまえを……返しにきたんだとおもう」
なんで疑問形?とおもったけど、少女はなにもいわないから、これでよしとした。
ながいながい旅がおわった。さいしょから、スタートもゴールもなかった旅だ。
わたしはもう、妙子ではない。
0コメント