わたしのスクラップ


大地と共に呼吸し、この地と空とを循環する水の流れにまかされた、天のとおりみち。

ほんとうに誰のものでもない、処女をまとった天のそれは、わたしのからだをすりぬける。/しずかな草原


 彼女が赤を好きというより、赤が彼女を選んでいた。/秒速のマフラー


わたしはそれを、心のおくで聴いていた。とうめいな孤独が奏でるメロディーは、どうしてもここちがよかった。それを、罪だとは思わなかった。/ひつじのうた


10時。空はすでに暗く、ひつじの数はかわっていなかった。
なにがふえて、なにが減ったのか、考えるのはこわかった。/ひつじのうた


どれも全部、知った顔だった。なのにどうしても、わたしは弟をわかることができない。
ひつじは生まれては死ぬから。
なにかがうまれたら、なにかは忘れられるから。

なみだがでた。
夜はまるでいないかのようにしんとしていて、声を出すことすら はばまれた。
弟のうたは、もうきこえなかった。/ひつじのうた


晴れたある日のはらっぱは、これまでいちどもひどい目にあったことはありませんと言うような顔をしている。/せいけつな罠


一瞬、花はゆがんだきがした。見てはいけないものを見た気がした。/せいけつな罠


手をのばす。花はうつくしくほほえみを返し、ついに、と心は踊り、次に、花は自爆した。人間がしんだときみたいな音がした。/せいけつな罠


そうして てらてらと降りそそぐあたたかな日ざしのおかげでだんだん眠くなり、気がついたときにはきいろの夢のなかでした。/レンガ(Smokey pink)


でも、帰る場所はおもいだせません。
ずっとここにいたような気がするのです。/レンガ(Smokey pink)


女の子は手をのばし、掴もうとして、そして消えました。なにもかもかんたんに消えたりなくなってしまうこの街のことを、愛しいともこわいとも思いました。/レンガ(Smokey pink)


なので今日は白パンになる。
一日中、あたしは白パンのことしか考えない。/アーメン電卓


白パンの文字をひともじずつ、分解して。そのまっすぐで無垢な線や、なだらかな曲線や、はねあがったかわいらしいラインのことまで丁寧に じっくりと、思い浮かべる。/アーメン電卓


口に出した瞬間、いっきにそれは現実味をおびて、こわすぎて泣いた。/アーメン電卓


あたりまえのルーティンを失ってしまって、あたしに、なにが残るというの/アーメン電卓


こきざみに、揺れるのがとまらない左手を、右手でおさえて、機械を そうっと裏返す。
“製造年:2546年”
絶句。
「存在、してないじゃん……」
/アーメン電卓


まばたきをしてやっと、自分が泣いていることにきづいた。
ヤギはこちらをみて、やっとか という顔をした。
変化しないものは妙にうつくしく、南京錠のように安心だった。/アーメン電卓


頭がぼーっとすると なにもかも秩序がなくなってこまる。今だって、まあるい地球みたいなのに、リボンと 牛の毛皮と、曼荼羅が手をつないでおどっている。/アウトオブいぬ


呼んで、ふと、あぁ 名前をつけてなかったと気づく。なるほどわたしは、いつだってもちものに名前をつけようとしない。/アウトオブいぬ


すでに紫いろの空はかたこたと不気味に鳴りはじめ、からかさおばけや小豆洗いなんかが空を舞い始める。カーテンをしめる。反動で近くのペットボトルが倒れる。

「ワン」
「……ほら、おいで……」

いつまでも駄々をこねるような犬をみていると、わたしまで泣きたくなってきて、名前をつけてしまうぞというきもちになる。
名前をつけると みんな死ぬからいやなのに。/アウトオブいぬ


「名前、ほんとはきめてたの」

でも、こわくてつけられなかったの。
夫婦喧嘩は犬も食わない。わたしの犬も、そういう判断をしていたかしら
大丈夫、わかってる。
後悔もたぶんきっと、犬も食わない。/アウトオブいぬ


彼はバラックのような屋根の上でおごそかに手をふとももの前で組んでいた。
しずかに目を瞑って、しとしとと降る雪だけがやけになまめかしかった。/幻と右ほほ


その目撃者の、女性という文字だけが太字でくっきりと、浮き出ているみたいだった。/幻と右ほほ


人さし指、中指、薬ゆびが ひた ひた と首の肉にくいこんでゆく。
少しも苦しい気はしなかった。ぜんぶの指が首をおおっても、まだ彼がしたことの理解ができなかった。/幻と右ほほ


すこし開いたカーテンから、くもった半月がのぞいて、とおくの方からオオツノジカの遠吠えがきこえた。/幻と右ほほ


「あなたは、わたしに、なにもいってくれなかったわ」
いつもみたいに なにも いわなかったじゃない。いわなかったから、わたしが無理に聞こうとしなかったから、どこかへ行ってしまったの?/幻と右ほほ


なつかしい匂いがした。なにもかもが変わらなすぎて、視点がはげしく揺れた。まばたきをすれば、鼻の奥が熱くなった。息を吸うまもなく、わたしは泣いた。/幻と右ほほ


あたたかい 大きなぬくもりが、頭をゆっくりと撫でた。ひたすら、わたしは褒美をうける子犬のように、上質なブラッシングをうける老猫のように、目を細めた。/幻と右ほほ


「あっ……ごめんね」
「モ」
このきりんはなき声がどくとくで、すごく牛みたいにきこえる。/うつくしい店


視界の端で きりんの上に犬が、犬の上にねこがのっている。/うつくしい店


外は、あいかわらず色のない雨だった。
特別なことはない、なにも解決するわけじゃないけれど、都会のどこにもない、忘れさられたことをわかろうとする、うつくしい店。/うつくしい店


どうやったってあの人には「静寂」が合う。
力がありすぎるから。
何もないことがいっそう魅力を際立たせる、空白の美である/2020.1.16


死人にくちなしとはいうが さかなだって似たようなものである。/冷凍さかな


「今のあなたによりかかったって 昨日の晩ごはんしか思いだせない」/冷凍さかな


でもそんなわたしを、あなたは怒らなかった。怒らなかったから、冷凍さかなになってしまったの?
 目が覚める。彼は依然として凛々しいさかなのままである。喉がつまる。目がじわじわ熱くなる。/冷凍さかな


かなしくないよ
いや、ちょっとかなしいけど
でもまぁ、きっとこれも 記憶になるよ。/からだで おぼえろ


どうして? どうして、こんなに重々しく、存在を主張するの
ああまるで 亡骸のように そこにあるの
/語らぬものは重い


変わらないのでしょう たぶんずっと
終わりがきても、なお
わたしたちは、かわらないんでしょう
/2019/11/16


星座占いが12位でよかったと思う。明日に希望をもてるからよかったと思う。きょうの日はがんばらなくていいと、勝手に納得できるから/きょうの日はさようなら


眠れない夜なんてなかった
揺れる金木犀をかんたんに想像できた/たえこ


いつだって丸くひかる月だけがわたしの還るところのように思えてしかたなかったし
動物たちも、ひそやかななかまだった。/たえこ


おはようさえも届かない、やさしい国
いつまでも、わたしをかえさないで。
いつまでも捕まえていて。
かなしすぎるtrapと、ゆきずりのラブレターで/たえこ


やわらかな ねむり
ここちよい もものにおいがする
あれは Friday
きんもくせいのうた
/Friday だかれて


すきとおるのは わたしのこころ
かわらない あの日の
「I need you」 ah

ピンクに染めても いつまでも
かなしかったの

Fridayに
 抱かれたあたし

イエーイ

/Friday だかれて


わたしは しらないうちに 大きくなって
しらないうちに できることがふえた
もう こわいところは いかなくていいし
しらないところは ひとりであるかないよ
/always わすれる


とかげが  わたしをみつめてる
枯れた花は 火葬をまって
なにもかも みんな 
先にいってしまうみたいよ
/always わすれる


「とてもあざやかな ピンクの色です」
骨の色だけは いつまでも  
わすれないの。
/always わすれる


ブランコにのって
 どこまでもゆくのわたしたち
とびだせ!HYPER・HYPER・アイスクリーム!/ムーン・二モニカ・ウォーク


あたしはつぶやく
「ヴァニラ・アイスがあれば生きてゆけるきがする」/ムーン・二モニカ・ウォーク


「あぁ!もうすぐ のみこまれてしまうよ」
わらってるのは なぜ?
ピンクのほおと ハイタッチだぜ ベイビー
/ムーン・二モニカ・ウォーク


かわいた そら パステル色で
まるで やわらかな幻燈のよう
/lonely ゆうらんせん


ゆらゆら しずかな うみべ
ブロック塀は、つめたいね

まっくろなネコが、金いろの
ひとみを のぞかせて みてるの
わたしを、じっと、みているの
/ドントウォーリー月


ドント・ウォーリー わたしのゆめ
ドント・ウォーリー わたしのゆめ
月の寿命だって、100億年さ
/ドントウォーリー月


かなしみはわたしの免罪符
ぷっかりうかぶ おつきさま
きょうも昔もかわらないなら
あたしはもう
まぶたを とじたい/ゆるりんこ


おはなししよう、わたしたち
「ド」のつくことばは、ゆっちゃダメだよ

あかりは消して
あたたかいスウプのしたで
みんな
じかんがないころの 夢をみている
/ここはおうち


ゆるり
ねむることが怖くなり、目をあけてしまう夜も、ゆるされて/ミロ


ひとつぶ、どうでもいい 涙がこぼれた。
しょせんわたしひとりの
なんの役にもたたない。/ミロ


でも、立ち止まってしまいました。
なぜだかわかりません。
足が一歩もうごかないのです。/とこちゃんとはちみつパン


とこちゃんは、きっとこの人は猫をつむのをやめたら 死んでしまうだろうと思いました。

なので、こっそりおじさんのポケットに、鮭のおにぎりをいれておきました。
ふつうの日々における、すこしのしあわせは、人をやさしくさせると思ったのです。/とこちゃんとはちみつパン


次の日、おじさんはモンゴルのはらっぱに出かけていきました。
ほんとうはくじらにひかれて死のうと思っていたのですけれど、おじさんは死にませんでした。/とこちゃんとはちみつパン


おじさんはほろりと涙を流して、死んでしまったおくさんの分も、ぼくは生きようと思いました。/とこちゃんとはちみつパン


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