くまの死にぎわ
くまのランデヴー。この世界にわたしを知るものはくましかいない。実直な暖かさ。抵抗も否定もしないその綿は、いつだってわたしを肯定した。
ゆっくりと瞼を閉じて、考えた。外には怪獣がウロウロしていたこと、目蓋を半開きにでも開ければもうそこにはわたしはいなかったこと。くまだけがわたしの住処で、抗えぬぬくもりの抱擁だったこと。押し返す愛は無気質でよかった。教科書3ページ5章に載っていた愛についてを、このくまがやさしく代弁してくれた。わたしはそれを、頬杖をついて聞いていた。窓枠にうっすら、雪が積もっていた。
くまの目が動かないまま一年が経って、友だちの飼っていた犬が死んだ。時の流れを順当に継承した気高いいきものたち。そのカオスに組み込まれることのできなかった、愚かないきもの。
永遠に動かないことだけが、どうして幸せだったの。もし怖がらずにこんにちはができていたら、今抱きしめているものはウールじゃなく、生きた毛皮だったの。朝が来る。
隣町のヒステリー。ぼんぼりを携えた狐の渇き。みなちゃんと呼吸をしていた。仲間はずれの小便小僧でさえ、教えられずとも約束ごとを守った。わたしの宝物は、容易く朽ちる。それまで保っていた純白の輝きはそうそうに失われ、どろりとした廃刊を繋いだ。そうすることが、当たり前であったかのように。怖いものはないと、慰めながら朽ちてゆくように。わたしは泣いた。ほんとうにほしかったものじゃないのに。二番目でよかったのに。泣いて悲しんだ。それが正しい感情だとは、思えなかった。
ほんとうに欲しいものを口にしていたら、何もかも大丈夫になりましたか。エルマーの落としたチューイングガムのように、ライオンを携えることができましたか。はたと見た炉端の雪は、煌々と燃えながらわたしの帰りを待っています。雪靴に履き替え、朝釣りの準備をする。
ほんとうは、くださいと言いたかった。泣いて、引き止めたかった。何も持ちえない笑いを投げて、大きな声で歌って、泳いで、跳ねて、眠りたかった。広大なぬくもりで、満ちることを、赦されたかった。
あいしてと落とした嗚咽は淡雪にさくさくと沈んでゆきます。それでよかった。小さな龍の尻尾を握り、またあしたの鐘を鳴らせば雪がしんしんと降り積もるだけ。
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