内覧席のパレード


 きらきらしてる。目の前の宇宙は、瞳をひらいたり閉じたりしながら収縮をくりかえし、ゆっくりと人間の形になる。

 外はうす青く、ぼんやりした光が瞬いては消える。そうゆう種類の夜。もう18時には外は暗くて、夏の気配はとうに感じない。ひんやりとする。洗濯物が乾いて冷える。その速度の速さ。あっという間に季節は変わり、またどうしようもなくおしまいの夜がくる。

 きらきらしてるものを追いかけてたらなにも見えなくなった。何かを好きでいたら、急に全部が嫌いになった。意味がわからなくて手探りで探していたら、昔愛してたオルゴールがLとか、ブラックジャックとか、YUKIだとかしゃべった。

 きらきらしてるもの。そこなってきたもの。瞬きをしたら夕が夜になり、そしてわたしのうたになってきたもの。
 ひなげしの花はかろやかに咲く。外は真昼のように明るい、天罰みたいな世界。そこには羊も牧草もなくて、ただ明るく澄んだ透明な空気ばかりが音を奪う。女が、ひとりではたを織っている。きっとんとん、きき、とんとん。一定のリズムで、一定の、感情を感じなくてよい動作で。

 外の青さは、手を一つ叩けば黒にぬれた。終わりの夜。おしまいだとか簡単に、片づけばよかった堕ちた夜。これまでのことを想像してみる。冬の服と、春の服を思い出した。夏の服には、あまりいい思い出がない。いつだって、楽しいことと悲しいことはともにあった。悲しむことでしか楽しめなかったようにも、楽しむことでかなしみを引き寄せていたようにもみえる。どちらにせよ、春と冬は出会いと別れであり、夏はわだかまりを産んだ、それぞれが虚しい季節だった。

 やさしくなろうと思えばできた。でも、それをしなかった。その一瞬一瞬を楽しもうと思えばできたのに、それをしたがらなかった。一つ一つの動作をしりません、わかりませんと拒んでは、必ず間違いから入ろうとした。人間関係は仕事ではないのに。正解を探るために間違うなんて、愚の骨頂だと思う。

 虚しい行為をしてる。人と一緒にいながら、いつか出会う相性の良いだろう人のことを想像しては、幸福になった。きっと、気を遣わなくていい。きっと、楽になれる。心から笑えて、一緒にいることを楽しいと思える。そんな人に出会えると、自分を変えもせずに人のせいにした。わたしが引き寄せていると、理解せずに今を諦めている。

 虚しい行為だと思う。オナニーと同じだと思う。人と繋がって、楽しいと思って、でも離れたら悲しくなった。心が繋がってたら、離れてても悲しくなかったことをしってる。今、心が繋がってないんだと気づいた。泣いたりはしない。あまり悲しいとも思わない、ただ虚しくて、虚しいことが一番わたしを殺してることにほんとは気がついていた。

 泣きそうになる。人と分かり合えないことが、こんなに悲しいと思わなかった。価値観が違っても、その違うことがわたしは好きだった。違うなら、わかりあいたいと、その努力も嫌う人がいるなんて思わなかった。ならどうしたらよかったんだろう。

 跳ねる蛙をみている。飛んでは振り返り、飛んでは振り返りをする蛙。まもなく死ぬというような、そんなふうにも見える。ほんとはこのつぶれた生きものと、永遠に暮らすべきだった。ほんとはほんとうに大事なものは、その時にみえなかったものだ。今ならわかると、でもいつだってわたしはそう言いそうだ。また時間がたって、またきっとわたしは別れて、出会って、別れてを繰り返す。その度に、はじめましてって言う。なんでもなかったみたいに。

 記憶がそこで終わって、はじまるのを、当たり前みたいに弄ぶ。記憶のゲーム、終わらないうた。それを帰らない国から見ていた、遠い国のわたしたち。約束は守らなくてもよかったの。機織りの娘は、あかるい国から見下ろしている。眩しくて目があかないほど、泣くことを許してくれた母たち。その泉、聖なるかがやき。そのどれも与えられなかった可哀想なひつじが、ぼとぼとと落ちては砂みたいに消えてゆく。その結晶がうす青い夜になる。夜が瞬きをして夕になり、夕も夜に姿を変えてわたしの瞼にふりそそぐ。まるで内覧席のパレード。光の丘でわらっていたはずの、過去のわたしを映す光。


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