01.16


「今宵は、とても綺麗だ」

DIOは、すいこまれそうなほど美しいおつきさまの裏にいた。

時は最終決戦前夜、DIOの最期の夜である。

DIOはゆっくりと息をつく。
ここは、なぜかおちつく。

地球のしずかにグラデーションのかかっていく感じや、星たちがひかりをうけてさわさわと光るのを、やんわりと見ていられたから。

そのとき。
ひとつの星のできそこないが、DIOに話しかけた。

「こわくはないの?」

ゆっくりと、金いろの睫毛はまばたきをする。
そして、くつくつと笑いだした。

「お前は、おもしろいことを言うな」

わたしは、もうじき死ぬだろう。
なんとなくわかるのだ。
だが、運命の奴隷となるのも、とても愉快だったぞ。

「ほんとう?」
「ほんとうだ」

神に誓える?
星のできそこないは言った。

遠くで、彗星がぽろぽろと落ちていく。

「……」
「わたしは、わたしであり続けることができたのなら、それでよかったのだ。そこに、嘘もまこともないのだよ」

星はゆっくり、ゆるりとほほえむ

「きみは、さみしい人だ」
「……もう、人ではない」

地球はもうじき朝を迎える。
星のできそこないは、宇宙の暗黒星雲にのまれて消えてしまった。

DIOは、なにもかなしいことはないと思っていた。
ほんとうに、自分がたしかな「DIO」であり続けられたら、それでよかったと思っていた。

ずっと、「奪う者」であり続けたかった。

なにも後悔などしていなかった。
これで正しかったと思っていた。

なぜなら覚悟ができていたから。
覚悟ができれば、明日はきっと天国だと知っていたから。

「……わたしは幸せだ。
天国に行く術を、知っているのだから」

DIOはゆっくりと思い出す。

『ディオ、何があっても気高く、誇り高く生きるのよ。
そしたらきっと、天国に行けるわ』

きらきらと、土星の輪に乗っていく。
体がだんだんと、目覚めていくのを感じる。

地球に還っていく間に、いろいろなことが走馬灯となってDIOを巡った。

涙がとまらなかった。

とまらなかった

あまりにも幸福で、あまりにも哀しくて。

「……わたしは、まちがっていなかった」

なにもかも、きっと正しかった。
まるでその言葉しか知らないかのように、しずかにくり返す。

ほろほろと、光となって夜に、朝に溶けていく。

「わたしは、全てを認めよう。受け入れよう。運命の奴隷であったことも、それにかなわなかったことも。

だがこれだけはたしかだ。
覚悟を、することができた。
わたしは、覚悟をすることができた。
天国への、覚悟が。

それだけで、もうよいのだ
よかったのだ。
わたしは全てが報われたのだ」


なぁ、泣くなよ。
わたしは後悔などひとつもしていない。
また次のステージへと、進むだけなのだ。

DIOは、ほんとうにやさしく笑った。
その哀しさの裏には、天国と呼べるものが見えた気がした。


さぁ、朝がくる。
地球は、あかるく照らされていった。

0コメント

  • 1000 / 1000