詩 たえこ




ほんとうは眠れない夜なんてなかった

あかりが灯る偽の夜ならば別だけど、つめたい夜、しんとした清潔な夜さえあればわたしはかんたんに眠りにつけた。

眠れない夜なんてなかった
揺れる金木犀をかんたんに想像できた

それがさらさらと風に舞い、地に落ちてゆく姿も匂やかに思い描けたし、あたまのなかにはやわらかな風がいつだって吹いていた。

金木犀はいつしか香らなくなり、秋なんて1週間もなかったようで
長い長い冬がくる。

夢からさめれない冬がくる。
いつまでも冬のとりこのような気がする。

いつだって丸くひかる月だけがわたしの還るところのように思えてしかたなかったし
動物たちも、ひそやかななかまだった。

平安貴族のようにあてやかな日本人形、その髪がするりとわたしを、つかまえて、離さない。

おはようさえも届かない、やさしい国

いつまでも、わたしをかえさないで。
いつまでも捕まえていて。
かなしすぎるtrapと、ゆきずりのラブレターで

ほんとうのことなんか何ひとつわからない、覆い隠された雪のなかで、
永遠にわらえるの?

空虚のなかでお気にいりの歌をひとつ、えいえんに歌っててもいいの?
ことばの、意味がわからなくなるまでずっと。


つよい風が吹いて、なにもかもふきとばされて
わたしには なにも残っていなかった。
言葉さえもう わからなくなった異国の土地で
わたしは

金木犀のかおりで、目をさまして




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